|
天気のいい金曜日。古書会館の交換会で入札のあと、昼飯を食べてから開札が終わるまでの合間、T3を片手に有楽町まで散歩した。神田駅付近の高架下飲食店街や本石町にある銀行、常磐橋から東京駅まで歩いた。駅北口にはガラス張りのビルが立ち上がっており、すでに営業中。丸の内もいつの間にかどんどんビルが再開発で建て直されており、元JR本社ビルのあった場所もオープンを待つばかりの新築ビルが屹立していた。新丸ビルも
建て直しに備えて近く取り壊されるらしい。長く見慣れた風景だったが、ここ数年で一気に変化しようとしている。東京駅の駅舎も建てられた当時の姿を再現するために改装工事が予定されているらしく、この界隈ではしばらく工事中で囲われる箇所がなくなること
もなさそうだ。
コンタックスT3を買ってからその携行性の良さと使う機能だけに割り切った設計の潔さに感心しながらよく持ち出している。スイッチをオンにしてからレンズを繰り出すまで若干のタイムラグはあるが、今をときめくデジカメ一眼よりも起動時間がはるかに早いということがわかって、あまり気にすることもなくなった。
銀塩カメラとしてはかなり小さいし散歩するお供にはぴったりかもしれない。せっかくだからカラーネガフィルムだけではなく、リバーサルやモノクロフィルムを試してみた。
スリーブで上がってきたスライドを見ると、思ったような色で街の風景が記録されていた。立体感のある絵が得られるということは、諧調表現が豊かでグラデーションが自然に表現されていることの証しであろう。
以前ヤフオクで買ったFORTEというハンガリー製のモノクロフィルムが余っていたので使ってみる。少し前ライカに入れて使ったときにあまりに写らなくて閉口した覚えのあるフィルムだった。ラチチュード(フィルムの表現許容度)が極端に狭く、諧調表現も不得意だった。でもそれはそれで面白いかもしれない。どんな風にゾナーが表現してくれるのか試したくなり組み合わせてみたのだった。
結果はライカのときとやはり似たようなもので、ハイライト部がハイエストライトのようになり、反面シャドー部分がストーンと黒く落ちた。中間諧調の表現が抜けて街が書割のようになる。丸ノ内界隈を書割に描き変えた絵がネガに定着されていた。そんな中で東京国際フォーラムのエスカレーターで何気なく写したカットに目が止まった。逆光を拾ったT3が2段ほどアンダーの露出で描いたエスカレーターの様子は、どこか無機質なこの建物の性格と妙にマッチして、見ていると乗っている人たちを一体何処へ連れて行ってしまうのか、という気持ちにさせる。
特にT3でなければ撮れなかったという写真ではないが、オートで撮影した偶然のアンダー露出とフィルムによって省略された人物のディティールは、都市で活動する人間の匿名性を表現している気がする。 |