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■東京人生

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東京人生
荒木経惟
バジリコ 2006年10月17日発行

  12月に入った日曜日、江戸東京博物館で開催中の「荒木経惟 東京人生」展を見に出かけた。目黒から山手線で秋葉原経由の総武線で両国まで。車中 では中平卓馬「なぜ、植物図鑑か」を読んだ。中平氏は最初の写真集を出した後、自己批判を繰り返し、結果として写真が撮れなくなってしまう。その経緯がこの本に克明に書かれていた。
 夢中で読んでいるうちに到着。駅前にどーんと立つ台形を建物。江戸東京博物館だ。早速常設展示階へ移動する。薄暗い照明の中、日本橋の実物大が復元され、その向こうのスクリーンにアラキネマが映る。さらっと展示を見てから企画展示室へ。「東京人生展」が展開されていた。
 会場の外にはみ出すように「さっちん」の写真群。作品はキヤノンで印刷されたものが壁面に直接貼り付けてある。もう「オリジナルプリント」を展示する写真展は過去のものとなりそうだ。

 電通時代に撮影した冷蔵庫。ウォーホルにならって「幸福」と書かれた紙を1000枚(!)作っていろいろ貼り付けたらしい。陽子さんのファーストショットもあったりする。電通時代は人物の顔に対しての執着がすごい。辞めた後、「東京は、秋」という名作が生まれたりしている。
 壁面に貼られた写真はおおよそ過去に出された写真集で見たものが多かったが、こうして写真展として再構成されてみるとまた違った感慨が生まれるから不思議だ。既視感のようなものすら感じる。
 ここに貼られている写真群は、皆、荒木さんの目を通じて見ている東京の断片なのだが、同じ断片なら自分の体験した東京の記憶だって断片しか残っていないもの がたくさんある。写真集、写真展と繰り返し自分が見てしまうことで、それは荒木さんの写真から見たイメージなのか、自分が見て覚えている 東京のイメージなのか徐々に区別が付かなくなっていくようだ。
 それは、荒木さんの見た東京写真を通じて知る東京もまた、自分にとっては現実(リアル)だということだ。(だから危険だ、と中平氏は 著書の中で言うのだが、それは後述する。)

 見ては立ち止まりの繰り返し。見ているお客さんはお年寄りから女子高生までさまざま。 立ち止まる場所がそれぞれ違う。一人ひとりお持ちの東京感とすり合わせながら写真を見ているような気がした。会場の真ん中に置かれている初公開らしいコンタクトプリントのスクラップには見物人が皆無(^^;。まあそれだけ壁面で展開されている写真展のインパクトが強かったのでしょう。ゆっくり見せてもらいました。

 今回の写真展は常設展示場所全体に展開されていて、一角ではアラキネマがエンドレスで上映中だった。荒木さんが東京の各所を巡るパワフルな撮影風景をずっと眺め続けた。三脚に付けたペンタックス67を軽々と背負って歩く姿が印象的だった。
 ミュージアムショップでカタログ代わりに写真集を買って(1575円は安い!)から出る。外はもう日が傾いていた。

 帰りの電車に乗って中平卓馬さんの本の続き。中平氏はグルグルと写真家として撮るべき写真は何か、をずっと悩んでいた。まず、”詩”の含まれた写真 を撮ってはならない、と言う。撮るべきはたとえば植物図鑑のように事物があるべきそのままの姿で記録できるもの、が最上だと言う。つまり写真に主観を入れてはイケナイのだ、と力説していた。”悲しそう”な猫の図鑑というものは存在しない。有名な文言もここで登場する。荒れた絵、ぶれた絵、ぼけた絵、粒子の粗い写真。そうした手法を用いて写真に詩情を込めることは世界の私物化・歪曲化に繋がっていく、というのが中平さんの持つ写真に対しての危機感だった。
 写真に詩を込めることを肯定すれば、政治や権力がイメージ操作によって世界を歪曲することと理屈の上で同じレールに乗ってしまう。それが イデオロギーの時代、60年代を過ごした中平さんにはできなかった。結果、氏は写真家でありながら写真が撮れなくなってしまった。どこかで何かが 絶ち切れている。読んでいてそんな印象を持った。

 まさに荒木さんとは正反対な態度だと思った。たとえそ の方法が理論上セージやケンリョクと同じレールに乗ってしまおうが、荒木さんは迷わずすべてを写真にぶつけた。荒木さんは鑑賞者を全面的に信用していたと思う。自分の全てを写真にぶつけて、それを鑑賞者は詩情(私情)の塊であることを理解した上でちゃんと受け止めてくれるはずだ、と。

 もっとも、荒木さんは「写真なんていいかげんなもんだから」(『おー日本』解説より)とも言ってのけるのだが・・・。

2007年01月01日記


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