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■劇写「女優たち」

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劇写「女優たち」
荒木経惟
白夜書房 1978年2月20日発行

 「かつて私は、現実を超え、現物(エロス)を感じさせる女を、「広辞苑」に内緒で、女優と定義したが、実は、女は、すべてが現実を超えていて、現物なのである。女はすべて女優なのである。」という帯書きは、あとがきにもある荒木さんの文章の一部である。宣伝文句からしてどこか哲学的なのだが、荒木さんはこの本で23人の女性を写真と文で掘り下げて、彼女たちの生き様を活写している。

 どこまでが現実でどこからが虚構であるかはわからないのだが、荒木さんは文中の「虚構」という文字に「ドキュメンタリィ(記録・実録)」とルビをふる。ウソとホントを行ったり来たりしながら、彼女たちをめぐる虚々実々の世界が23篇展開されている。
 ごく普通の家庭に育ち、成長した女性が荒木さんのカメラの前で自分のすべてをさらけ出すことはまず無い。幸せに生きる女性が登場することは少なく、生まれた家庭に不幸があったり、「生まれ」に間違いがあった女性など、”過去を背負っている という設定の”女性ほど、カメラの前での露出度が大きい。

 「荒木経惟写真全集」の12巻で取り上げた桜井絹子サンの話は確かにすごかった。失恋のヤケで行きずりの黒人としたSEXで妊娠した彼女は、相手に打ち明けると「ひと月で帰ってくる」と真っ黒なウソをつかれて本国へ逃げられてしまい、ひとりで産んだ子はやはり黒かった、という話。絹子さんの家庭は父親の女道楽で彼女が3歳の時に崩壊していた。

 星拾子サンの話。彼女は青森県三沢で米軍基地に勤務する父と小学校の先生をしていた母との間に二女として生まれた、ということになっているが、実は母の不倫の子だった。大火事で焼け出されて姉と一緒に必死で逃げる途中、父ではない男性に腰を抱かれながら呆然と火を見詰めている母を見た。相手は外人のように見える。実に父の勤務する米軍基地の将校だった。母の愛人の存在を父は知っていたが、母とは別れなかった。母を愛しすぎていたからだった。転勤を申し出る父。勤務地立川に移った後、母は蒸発した。中学生になった拾子へ蒸発した母から手紙が届く。それは自分が父と母の子ではないことを告げる手紙だった。

 横浜リリィさんの話。氷川丸の船上で髭面外人とキスしている女を発見。それがリリィだった。彼女は北海道の函館に生まれ、中学を出ると憧れの東京へ家出し、小さい頃からの夢だった看護婦になるために喫茶店でアルバイトをしながら看護婦養成学校に一日も休まず通った。果たして看護婦になった彼女は大病院に5年間勤めたのだが、失職。現在は「ハリウッド」横浜店のキャバレーの女。ドクターへの片思いに破れたからやめた、と彼女は語るが、調べると、リリィは病院では患者たちから「フェラチオリリィ」と愛称されていて、セックスの処理に悩んでいた患者たちを抜いていた。そのことがオールドミスの婦長にばれてクビになったのだった。
 髭面の外人は店に来たその日にリリィにプロポーズしたという。そんなウソをリリィは信じてしまったのだろうか。その後、リリィに二度ばかり会うと、彼女にはもう一人愛人がいる事を知った。

 釧路紀子サンの話。彼女は、北海道釧路の炭鉱町に生まれた。小1の時に炭鉱は閉山。一家は小樽へ引越し、父は日雇い仕事で夜は酒びたり。酔っぱらっては「炭鉱節」を大声で歌い、泣いた。足りない収入をカバーしようと母がバーに勤めだしてからは、父は仕事をしなくなり、女遊びもし、町のバーというバーを飲んだくれ歩いた。
 そんな中、事件は起きる。小樽に降った20年ぶりの大雪の翌日。その夜帰らなかった父が妙に気になった。雪でからだを冷やしながら愛人宅を訪ねる紀子。しかし父はおらず、若い男が出てきて凄まれる。部屋に入ると彼ひとりで父の愛人もいない。実はその部屋は父の愛人の隣の部屋だったのだ。ボーイフレンドとおそろいでしていたマフラーを口に突っ込まれて襲われる紀子。激痛とともに16歳の彼女は処女を喪失した。その激しい物音に隣の部屋から飛び出してきた父がドアを蹴破って入ってきたときにはすべてが終わっていた。愛人と同衾していた隣の部屋で自分の愛娘が、と思うと神のバチが当たったのかと悔やむ父。愛人の部屋から出刃包丁を右手に取って返し、父は男の男根に振り下ろした。処女を喪失した血と男の血が混じりあい、流れていった。
 紀子サンと荒木さんの写真は名著「男と女の間には写真機がある」の表紙をも飾っている。

 こんな調子で23人の女優の話が写真とともに語られる。どこまでが本当でどこからが虚構なのかはわからない。ただ、彼女たちがヌードになった写真の横に、こんなエピソードが書き込まれていると、なんともいえなくなる。わざとウソっぽく話を展開させるところをみると、すべてが虚構ではないように思う。それと、微妙に在日米軍の存在が語られ、占領されたという歴史を意識したものが多いことも、興味深い。

 「女優」といっても名の通った女優はひとりも登場しない。しかし、彼女たちのエピソードとともに提出される、荒木さんによって撮影された彼女たちの表情はまさに女優なのだ。プロの女優を撮ったって、そのエピソードは営業用のウソで塗り固められている。荒木さんの頭には同じウソならこっちの方が面白い、という確信があっただろう。事実、「かわいい、きれい」だけの写真集は時代の変遷により読み捨てられ、その一方で、この「劇写「女優たち」」は甘露書房の店頭に並び、現在も変わらない魅力を放つのである。

 あとがきに「この本は、末井昭との共作である。末井昭がいなかったら、この本はできなかった。(中略)なんと、あのツラで「女優たち」全部をひっかけてきたからである。さも私が、「女優たち」と出会って劇写したように書いているが、臀部ウソ、あのモンスター・スエーがひっかけてきたのである。私は不思議膏でならない。」とある。この本は傑作であり個人的にも大好きなのだが、その仕掛け人は誰あろう白夜書房の名編集長、末井さんなのだ。この本が出版されて22年あまり経った現在、パチンコ関係の雑誌を主体にしている白夜書房なのだが、かつてのようなあとあとまで残る仕事を再びして欲しいと思うのは私だけではないはずだ。

2000年8月15日記


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